広尾の整体の天珠医学が脳の疲れと踵の冷えの関係を漢方的に説く

2017/10/20
踵の冷え

 急に寒くなって足が冷えている人が多くなりましたが、今回はその足の冷え、特に踵の冷えと脳の働きとの相関関係について、興味深い症例に遭遇しましたので、紹介したいと思います。

 定期的に通われている方が、いつになく踵が冷えているので、急に寒くなったのでそのせいかな、と思いながら治療をしておりました。その治療の過程で、頭が非常に凝っていることが、特に目立ておりましたので聞いてみると、仕事でいろいろ大変だったようでした。また、左手の指を治療している時に、心臓に関係する指が凝っていることにも気づきました。それは、心臓の本体と関係の深い小指よりも、心臓の膜とつながっている心包経の疲れの方が強かったので、実体そのものの異常というよりも、機能の疲れを現しているなと思いました。

 以上のもろもろの症状を総合して考えますと、私は、この踵の冷えは、脳の疲れによるものだと判断しました。漢方で言うならば少陰の冷えということになります。その少陰とは漢方で言えば、心臓と腎臓を意味します。このことは、少陰心経・少陰腎経という経絡の名称からもお分かりいただけると思います。その少陰の腎は脳髄と骨を主っています。また腎臓と心臓は互性の関係にあります。

 以上を前提にして、この方の場合を考えますと、仕事で脳を酷使して疲れますと、当然その秘書役に徹していた<交感神経ー副腎系>も疲れることになります。そうするとその支配下にある心臓や腎臓も疲れて働きも悪くなっていきます。結果として末端の踵に十分に血を巡らせる力が衰えて踵が冷えていくようになります。この段階は、まだ冷えの自覚があって実体の冷えというよりも機能の冷えの状態です。その段階でどういうことが起きているかと言えば、踵の骨の中で造られるスジの質が次第に悪くなっていって、それによって、冷えが機能から実体にまで進行すると、冷えは少陰から厥陰の冷えにステップアップというべきかステップダウンというべきか、ともかく進行します。

 そうなるとどうなるかと言えば、少陰の冷えの段階は、冷えはまだ本人も自覚できていたのですが、厥陰の冷えになると他人が触ると氷のように冷たいのに本人の自覚がなくなります。こうなるとスジは、本来の機能を喪失して牛スジの煮凝りを冷やしたような状態になって、運動性のない冷たい鉛のような感触になってしまいます。こうなると、なかなか治りにくくなって、とても厄介であり、危険でもあります。

 この方の場合は、まだ少陰の段階でしたので、治療中にすぐ冷えが取れて足がポカポカしてきました。そのコツは踵の周りのスジをほぐして交感神経の働きを良くしてやることです。足が冷えるというのは動脈を動かす交感神経の働きを良くしてやることなのですが、その交感神経の働きが亢進することが冷えの原因だとする説があることには驚かされます。

 たとえば、「足の細動脈(酸素の豊富な温かい血液)は交感神経の支配下にあって交感神経が活動すると血管の中膜にある平滑筋(へいかつきん)が収縮し温かい血液がスムーズにいかなくなり足冷えの原因となります。」というような説明がインターネットにあります。足の動脈の筋肉の運動を統括しているのは、ここに書いてあるように交感神経です。その交感神経が活動すると血液がスムーズに流れなくなって冷えの原因になるとは?これ如何に??

 寒いところに行くと、防衛的に冷えを貰わないように手足の血管の運動を止めて血がいかないようにするのも、家の中に入って冷えを防ぐ必要がなくなった途端、手足がポカポカと温かくなるのは、交感神経が酸素の供給をストップしていたところに急いで血を巡らせようと頑張ってくれているおかげです。このように、防衛的に血液を巡らせないようにする必要がないときにも、治が廻らないのは、交感神経が本来の仕事をサボっているせいです。そんな時に水かきを抓んで交感神経に活を入れてやると、途端にポカポカ温かくなるのは、交感神経が本来の活動を始めたからです。この事実からも、上に挙げた説明が如何におかしいか分かろうというものです。