長い間勤めていた仕事を辞め、慣れないオペレーターという新しい仕事に転職された方。新しい仕事に就くことは、脳にとっては新鮮で、刺激的で、否応なく脳細胞全体のフル稼働を余儀なくされ、脳の活性化だけでなく、身体全体も新たな体の使い方に適応しよと活性化されます。そして、それが一段落するころ、その新たな仕事特有の凝りが、次第に形成されるようになっていきます。
この方の場合はオペレーターですから、電話で相手の話を聞くのが専門ですので、それに関連するところに凝りが形成されることになります。この方は、はじめ左耳で聞いていたのだそうですが、最近、聞き間違いをすることが多くなってきたため、右耳で聞くように変えたのだそうです。
そこで、早速触診してみると、左右ともに耳の周りが非常に凝っていて、耳の下の首筋の凝りはやはり左側の方が芯が硬く、特に目についたのは、左側の頬骨の耳の前の骨の周りにぶよッとしてスジのしこりができていたことでした。これだけ耳の周りが凝っているということは、耳の中の方も当然凝っているでしょうから、音の感度も低下して聞き取れにくい音域ができて、聞き取りに誤認が生じることになったのだと思われます。
これは徐々に進行したと思われますので、突発性とは言いにくいのですが、凝りによって生じるという面では共通性があります。そして、その凝りを取り除いてやると、機能が復活し難聴が煽るという共通性もあります。
ではなぜ、突発性難聴へのステロイドホルモンの投与が功を奏することがあるのか?それはステロイドホルモンに、凝りを取り腫れを鎮める働きがあるからです。ぜんそく患者やアトピー性皮膚炎の患者に、ステロイドホルモンが著効を示すことがあるのはそのためです。副腎不全によるステロイドホルモンの不足で足がパンパンに凝ってまともに歩けなくなっていた人に、ステロイドホルモンを投与したとたん、スタスタと歩き出したという例もあるようです。
しかし、問題はこの劇薬をどの程度使用したらよいかということは、本来、その体を統括している<交感神経ー副腎系>が、その内的必然性に基づいて使われるべきです。それを人工的に、外から介在して投与することは、本来の必要性を越えてしまう危険性が高くそのための副作用が多く報告されています。じつは、かく言う私自身も若いころステロイドホルモンの目薬を使って緑内障を発症し、右目を失明したという過去を持っております。
ですから、ステロイドの使用は外からではなく、<交感神経ー副腎系>の働きを本来のものに戻してやって、患者自身の力で行うようにするのが、理想的な治療であり、これこそが治未病の治療だということができます。ですから、突発性難聴の治療も、<交感神経ー副腎系>の治療がとても重要になります。