NHKスペシャル人体「臓器たちは“会話”している?」を見て

2017/10/03
天満宮

 NHKスペシャル シリーズ 人体 プロローグ「神秘の巨大ネットワーク」「臓器たちは“会話”している?」を興味深く拝見させていただきました。こうして人体の構造が、より深く、より詳細に解明されていくことは大変良いことです。そしてその結果、実際の治療において、これまで以上に目覚ましい成果を上げている事実は、大変結構なことだと思います。ただ、好事魔多しと申しますが、もろ手を挙げて喜んでばかりはいられない面もあるように見受けられましたので、注意を喚起する意味でも、少し憎まれ口を挟んでおきたいと思います。

 現代医学は、その目覚ましい発展によって、これまで常識とされていたことが、根底からひっくり返されるような事態が生じているのだそうです。それが、人体は脳や神経・ホルモンなどの統括器官によって統括されていて、各臓器や細胞は、ただのその統括にしたがって唯々諾々と動いているだけ、というこれまでの見方が180℃第転化されるかもしれないのだそうです。具体的に言いますと、各細胞が独自に情報を発信して、細胞同士・臓器同士の情報の交流・ネットワークが形成されている事実が、次々と発見されているのだそうです。その情報の伝達に使われている物質の構造までも分かってきたので、それをブロックする薬を使って症状を抑えることも可能となってきている、という事実も報告されていました。

 それを見ながら私が危惧を覚えたのは、これまでの人体は統括器官によってコントロールされているという常識が、覆されて人体は細胞や臓器の個々が、ネットワークを作って神経やホルモンによってではなく、勝手に動いているという見方がこれから有力になるかのような物言い・勢いを感じたことでした。

 現代医学は、技術的な方法論はしっかりしていますが、学問的な方法論を持っていないので(ヘーゲル哲学が捨てられたおかげで・・・)、新しい発見が発掘されると、それが全てとなってしまって、それまでの説が簡単にひっくり返されて、次々と見方が変わっていくものの、学問としての体系的な発展は見られないという不思議な様相を呈しています。

 生命は生きているのですから、細胞の個々も、臓器の個々も、それぞれ主体的に生きて交流していることは当然のことで、それらを統括して一個の人間としての統一性を保っていくのが、統括器官たる脳や神経・ホルモンの役割のはずです。つまり、これまでの統括器官が統括しているということと、細胞個々が主体性をもって情報発信をしていることとは、何ら矛盾せず、それらは両立しうるものだと見ることが学問的な見方であるべきです。

 ですから、一つの例として挙げられた、慢性関節量待ちを起こしている人の免疫細胞が、敵でもない自分の関節の骨を、敵だという誤った情報を周りの仲間たちに発信してしまう現象も、細胞が主体性をもって情報を発信している例として挙げられていましたが、これは明らかに統括器官の統括が、まともに行われていない結果として、狂った情報をその細胞が発信してしまっている病的現象であって、どうしてそういう現象が起きるのか?こそが解明されるべきです。

 しかし、番組では、その情報を伝える物質の構造が解明されて、それをブロックすることによって関節リュウマチの症状が改善されるようになったことが、画期的な発展であるとして称賛されていました。それは確かに、患者さんにとってはとてもありがたいことですが、医療の王道の究明としては、何故細胞が狂ってしまうのかこそが、大問題ではないかと思います。なぜなら、そちらの方が、関節リュウマチにかかって苦しむ人自体を減らす根本的解決につながることになるからです。これこそが、医療の王道たる治未病の道であり、この番組の方向性の匂いは、やはり現代医学的な治已病の道と言わざるを得ません。